3. 建築で使う気象要素の意味
この章では、出力される各気象要素が「何を表す値か」と「建築の計算でどう使うか」を、項目ごとに説明します。
3.1 気温・湿度・気圧
TMP/単位: ℃/参照時刻時点外気の乾球温度(ふつうの温度計で測る気温)です。建物内外の温度差による熱移動、暖冷房負荷、外表面温度、自然換気などの計算に使用します。ArcClimateでは、周囲のMSM格子点の気温を指定地点との標高差で補正した後、距離に応じて空間補間します。
標高が100m高くなると、気温を約0.65℃低く補正します。
MR/単位: g/kg(DA)/参照時刻時点乾燥空気1kgに含まれる水蒸気の質量です(単位 g/kg(DA) の「DA」は乾燥空気=dry air の意味)。一般に「絶対湿度」と呼ばれる g/m³ の容積絶対湿度とは単位も意味も異なります。潜熱負荷(水分の蒸発・凝縮に伴う熱の出入り)、加湿・除湿、結露、空気線図(湿り空気の状態を表す図)上の状態を扱う際に使用します。標高補正後の温度と気圧に対して飽和状態を超える場合は、飽和水蒸気量を上限とします。
RH/単位: %/参照時刻時点その温度で空気が保持できる水蒸気量の上限に対して、現在どの程度の水蒸気を含んでいるかを表します。空気中の水蒸気量が同じでも温度が変われば変化するため、水分量そのものを見る場合は重量絶対湿度や水蒸気分圧も併せて確認します。
Pw/単位: hPa/参照時刻時点空気全体の圧力のうち、水蒸気が担う圧力です。壁体内の水蒸気移動や結露判定では、内外の水蒸気分圧差が重要になります。
DT/単位: ℃/参照時刻時点現在の水蒸気量を保ったまま空気を冷却したとき、飽和して結露が始まる温度です。表面温度が露点温度を下回ると、表面結露が生じる可能性があります。
PRES/単位: Pa/参照時刻時点大気の圧力です。標高によって変化し、絶対湿度・空気密度・換気量換算などにも関係します。
3.2 日射と太陽位置
DSWRF_est / DSWRF_msm/単位: MJ/m²/前1時間積算水平面に入射する太陽放射の合計です。水平面に入る直達成分と、空全体から届く天空日射成分から構成されます。
DSWRF_msm:MSMの日射量を単位換算した値DSWRF_est:雲量、気温、湿度、エアマス(太陽光が大気を通り抜ける距離の目安。太陽が低いほど大きい)などから推計した値
DN_est / DN_msm/単位: MJ/m²/前1時間積算太陽光に対して正面を向く面に入る直達日射量です。建物の壁面や傾斜面の日射量を計算する際に、太陽位置と組み合わせて使用します。「水平面に入る直達日射量」ではない点に注意してください。
SH_est / SH_msm/単位: MJ/m²/前1時間積算雲や大気によって散乱され、空全体から水平面に届く日射量です。
全天日射をこの2成分(直達・天空)に分けることを直散分離といいます。直散分離には複数の推定手法があり、ArcClimateでは Nagata・Watanabe・Erbs・Udagawa・Perez の各手法から選択できます(既定はPerez法)。
h / A/単位: °/前1時間平均太陽高度角は地平線から見た太陽の高さ、太陽方位角は水平方向の太陽の位置を表します。外壁・窓・屋根面への日射量、庇やルーバーの遮蔽、日影などの計算に使用します。
3.3 長波放射・放射冷却
Ld/単位: MJ/m²/前1時間積算大気中の水蒸気や雲などが放つ長波長の赤外放射のうち、地表や建物へ向かって下向きに届く量です。太陽から届く日射は主に短波放射ですが、下向き大気放射は大気や雲の温度に由来する長波放射で、夜間にも昼間にも存在します。
ArcClimateでは、MSMに下向き大気放射量が直接含まれないため、気温、水蒸気圧、雲量などから推計します。一般に雲や水蒸気が多いと、空から地表へ戻る長波放射が大きくなります。
NR/単位: MJ/m²/前1時間積算外気温と同じ温度の黒体(受けた放射をすべて吸収し、温度に応じて放射する理想的な物体)が天空へ放射する長波放射量から、下向き大気放射量を差し引いた値として算出します。これは、外気温相当の表面から天空へ正味で失われる長波放射エネルギーの目安です。
(Tair + 273.15 はセ氏温度[℃]を絶対温度[K]に直す操作です。σはシュテファン–ボルツマン定数)
名称に「夜間」とありますが、この長波放射交換は昼間にも存在し、ArcClimateでは各時刻について算出します。
計算式を表示
σ=5.67×10⁻⁸ W/(m²·K⁴)(シュテファン–ボルツマン定数)。σT⁴[W/m²]に1時間(3600秒)を掛け、×10⁻⁶ でMJ/m²に換算しています。
重要な注意
NR は、実際の屋根や外壁の表面温度・放射率・天空率・周囲建物を反映した熱損失そのものではありません。実際の外表面の放射熱交換は、表面温度、放射率、天空の見え方、周囲地物などを別途考慮して計算します。
晴天と曇天の違い
晴天・乾燥
下向き大気放射が比較的小さい → NRが大きくなりやすい → 表面が放射冷却しやすい
曇天・多湿
雲・水蒸気から戻る放射が大きい → NRが小さくなりやすい → 放射冷却が弱まりやすい
放射冷却によって外表面温度が外気温より低くなり、露点温度を下回ると表面結露が生じることがあります。
3.4 風
UGRD / VGRD/単位: m/s/参照時刻時点MSMでは、風を東西方向と南北方向のベクトル成分として扱います。ArcClimateでは、この2成分をそれぞれ空間補間した後、風速と風向へ変換します。
w_spd / w_dir/単位: m/s・°/参照時刻時点風向は「風が吹いてくる方向」を表します。風向角をそのまま平均すると、350°と10°の平均が180°になるような不合理が生じます。そのため、ArcClimateでは角度ではなくU・Vベクトルを補間します。
16方位への丸め
出力する風向 w_dir は、補間したベクトルを16方位(22.5°刻み)に丸めた値です。風速 w_spd は、丸めた方位方向へ射影した成分(ベクトルの大きさ × cos(丸め前後のずれ角))として出力します。
3.5 降水量
APCP01/単位: mm/前1時間積算参照時刻までの1時間に降った水の深さです。1mmの降水量は、水平面1m²あたり約1Lの水に相当します。建物熱負荷計算では直接使用しない場合もありますが、濡れ、蒸発、雨水利用、外皮の熱湿気計算、気象状態の判定などに利用できます。